ぼくの ヒーローR2 第2話 ひみつのかいぎ


壁に設置された通信機器。
部屋の中央にはコの字型に設置された会議机。
地下深くに存在するこの場所を煌々と照らすのは、人工の照明。
会議の席には、嘗てこの国がまだ日本と呼ばれていた頃から、国を守るために戦い続けていた猛者達、そしてまだ年若いが同じくこの国を思い、この国を取り戻すために立ち上がり戦っている戦士たちが集まっていた。
皆一様にピリピリとした空気を纏い、真剣な表情を浮かべ、この会議の議長であり、自分たちの指揮官でもある男の到着を待っていた。会議の時間までまだ10分ほどあるが、気持ちが落ち着かず、気付けば皆この場に集まっていた。
しんと静まり返った空間に、かつり、かつりと靴音が響く。
その音に、彼らは反応し、思わず音のする方へと視線を向けた。
この地下空間への出入口は厳重に閉ざし、関係者以外立ち入れないため、部屋と通路を遮るシャッターは閉じられていなかった。そのため、カツリ、カツリと静寂の中を歩く靴音が鮮明に聞こえてくる。
ほどなくして姿を現したのは、目が覚めるような鮮やかな新緑の髪を持つ美しい少女だった。表情の読めない人形めいた美しさは、多くの男を虜にするほど。神秘的な黄金色の瞳は、それだけで人目を引きつける。
そんな美少女が腕に抱いていたのは、黒い服に身を包み、お面をつけた子供だった。
ここが娯楽施設や、子供が集まりそうな場所、あるいは縁日ならば、そのような子供がいてもおかしくはないだろう。ヒーローに憧れ、お面をつけて走り回る子供は多い。
しかしこの場所は、幼児や少女が来るべき所ではなかった。
ここは、エリア11のテロリストグループ・黒の騎士団の秘密のアジトなのだから。
だが、少女は厳つい者たちの視線も、重苦しい空気にも物怖じすることなく室内へとはいると、この部屋で上座にあたる席にその幼い子供を下ろした。
その瞬間、部屋の空気が一変する。
まだどこか緩んでいた空気が、一気にピリッとした緊張を孕むものとなった。

「またせたな。では、かいぎをはじめる」

幼い子供はその年齢には不似合いなほど威厳にみちた声で会議の始まりを告げた。

・・・と、思わず現実逃避してしまったが、はたから見てもやはり異様だなとC.C.は思わず息を吐いた。幸いこのため息は隣に座っているゼロにも他の面々にも気づかれずにすんだが、この状況には呆れてため息しか出ない。
だってそうだろう?
この場を取り仕切っているのは、成人を過ぎた者たちではなく、この小さな幼児なのだ。成人するには程遠い人物が、トップにいるのだ。とはいえ、体は子供、頭脳は大人なので、普通の幼児とはいえないが、それでもまだ未成年には違いない。
今は表に立つ事が出来ないため、ここで今後の活動予定を指示し、藤堂が中心となり黒の騎士団は活動している。奇跡の藤堂と呼ばれる厳島の英雄が来たのだから、団員は誰も文句を言わず(文句を言うだろう旧扇グループは現在玉城以外行動不能だ)むしろ以前よりも軍隊らしい組織に代わってきた。
元軍人の藤堂と、その部下が上に立ったのだから、当然の流れか。
これに関しては悪くない。
・・・その藤堂たちが、幼児の指示で動いている事を除けば。

「いじょうだ。なにか、しつもんはあるか?」

4日後に決行される、リフレイン工場強襲作戦。
それに関しては、質問も意見も上がらなかった。

「では、つぎの ぎだいにはいる。きょうは、このために あつまってもらったようなものだ」

リフレイン工場の強襲は既に何度も行われている。工場の場所、逃走ルートや相手の情報等が変わるのは当然だが、動く団員・銃火器や・車両関係・リフレインの処分方法はいつもと変更はないため、基本情報さえ渡しておけば、藤堂は上手くやってくれる。コーネリアの動きや罠の可能性など踏まえた上での作戦だから、よほどの事が無い限り問題ないだろう。
とはいえ、これらは全て藤堂とだけ話せば済む内容。
秘密のアジトを知る全員を集め、話す事では無い。
それ以外の、重要な問題に関する招集だと誰もが気付いていた。
幼児がたどたどしい口調で一生懸命説明していたため、嫌が負うにも場の空気が和んでいたが、この宣言で再び空気は張り詰めた。

「だよな!ったくスザクの野郎、ブリタニアの・・・あんなお飾り皇女の騎士になるなんてよ!みそこなったぜ!」

眉を寄せ、怒鳴るように言ったのは玉城。
なんだかんだ言っても、足しげくゼロの元に通っていたスザクを認め、気に入っていたらしく、今回のユーフェミアの騎士就任の事は裏切られたような気分なのだろう。ブリタニア軍には行ったのは生きるためだとしても、ゼロの親友なのだから、その敵である皇女の騎士になるはずはないと思っていたのかもしれない。

「馬鹿かお前は」

あまりにも馬鹿な発言に、反射的に口を開いてしまった。

「んだよC.C.!俺のどこが馬鹿だってんだよ!」
「だって、馬鹿だろう?枢木スザクはただの一市民にすぎない、それも元イレブン、名誉ブリタニア人の、一市民だ。ランスロットに騎乗するために地位は得ているが、アレは名前だけ。ブリタニアでの扱いは一兵卒時代と何も変わらない」
「だからなんだってんだよ!」
「わからないか?たかだか一兵卒が、皇女殿下の命令に逆らえるはずがないだろう?あれだけ大々的に私の騎士ですと、あのお飾りは発表したんだ。スザクが拒否すればどうなると思う?」
「・・・どうなるんだよ」

頭の悪い玉城でも、スザクが嫌だと言えば済む話ではない事にはようやく気づいたらしい。先ほどまでの怒りは消え、不安げに尋ねてきた。

「しけい だ」

ゼロは当然のことのように告げた。

「死刑!?何でだよ!?」
「きしをことわるということは、こうぞくに さからうということ。おおやけのばの はっぴょうを きょひするということは こうぞくに はじをかかせるということだ」

そんな事をして無事で済むはずがない。
皇族にとって、貴族にとって属国の人間など家畜と同じ価値しかない。
皇族が戯れに愛でていた家畜の分際で主人に逆らい、傷つけたのだ。
殺処分されるのは当たり前の事だろうと、幼児は言った。

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